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(虫歯・無痛治療・知覚過敏)
虫歯は、歯垢(プラーク)の中の細菌が生産する酸によって歯が溶けていく疾患で、それはさながら酸性雨が森林を枯らしていく様です。
歯を失う原因は、患者様によって様々ですが40歳以下の患者様に限定すれば虫歯によって歯を失う患者様が一番多いことは疑いようもありません。虫歯は感染症ですから、歯の一部が虫歯菌に侵されてしまうと、自然治癒は期待できず、基本的にはその部分を外科的に除去しない限り、健全な部分にどんどん進行し最悪の場合、抜歯をしなければ治らなくなります。近年の先進医療では、歯を削らずに虫歯菌を薬で無菌化する治療法の研究も進み当院でも段階的に導入しておりますが、少なくとも一度溶けてしまった歯質(エナメル質・象牙質・セメント質)や歯の中の神経(歯髄)が再生することは二度とありません。虫歯の発見が遅れれば遅れる程、治療時間・治療期間ともに長くなり、治療費の御負担も高額になってしまうばかりか、削る範囲も大きくなるため治療痕も目立ちやすくなってしまいます。早めに治療すれば、どのような虫歯も保険治療で白く治せます(CR充填)が、虫歯が大きくなってからだと銀歯(インレー修復)での治療が必要となるためです。一生涯御自身の歯で美味しくお食事して頂くため(8020運動)に、毎日の適切なブラッシングと、4ヶ月に1回の定期検診で虫歯の早期発見・早期治療を心掛けましょう。
虫歯の進行度による分類
虫歯の進行度 | 症状 |
---|---|
C1 (エナメル質齲触) |
自覚症状は特になし。エナメル質に進行しており、歯質の不透明感や白斑、色素沈着が認められる初期の虫歯。 |
C2 (象牙質齲触) |
冷たいものがしみる(冷水痛)症状が時々出る。象牙質に達した虫歯。 |
C3 (歯髄炎) |
温かいものがしみる(温水痛)、何もなくてもズキズキ痛む(自発痛)等の症状が出る。歯髄(歯の神経)に達した虫歯。 |
C4 (根尖性歯周炎・歯根膜炎) |
膿が溜まって腫れる、咬むとズキッと痛む(咬合痛)、口臭の悪化等の症状が出る。歯根の先が膿んだ病変の状態で歯冠部が崩壊し残根状態の虫歯。 |
虫歯の好発部位
- 歯と虫歯の境目
- 咬み合わせの面
- 歯と歯が接している面
虫歯の治療法
一般的に「歯科麻酔の注射が怖い」という患者様の声をよく耳にしますが、4ヶ月に1回の定期検診で虫歯の早期発見・早期治療を心掛ければ、ほとんどの虫歯は歯科麻酔なしで治療可能です。しかし、C1→C2→C3→C4と虫歯が大きくなってからだと削る範囲も大きくなるため、局所麻酔(表面麻酔+浸潤麻酔)が必要となるケースも少なくありません。
そこで、当院では歯科麻酔時の患者様の痛みを最小限にするため様々な工夫を凝らしております。
注射針を用いる前に、表面麻酔を粘膜面に塗布し痛みを和らげます。ただ、実際は歯科麻酔の注射針は細いためほとんど無痛に近く、表面麻酔は一種のおまじないのようなものとの報告もあり、患者様のリラックス程度の効果しかないと日本歯科麻酔学会では位置づけられております。
患者様が痛みを感じる一番の原因、それは浸潤麻酔時の麻酔薬を注入される瞬間にあります。当院では現在、コンピューター制御コードレス電動麻酔注射器を導入しておりますので、御希望の方はお申し出下さい。麻酔の痛みを和らげるには、出来るだけ細い注射針を使ってゆっくりと麻酔液を注入することが必要です。当然のことながら、使用する注射針が太いと痛みを感じやすく、反対に細くなればなるほど痛みを感じにくくなります。当院で使用している注射針は、33ゲージというサイズの世界最小注射針(極細針)で、針が刺さる痛みを感じにくく作られています。しかし、注射針が細くなるとその分強い力が必要になり、力のコントロールが難しくなります。コンピューター制御コードレス電動麻酔注射器を使用すれば、細い注射針でも人間の手では再現出来ない痛みの最も少ない理想的な注入速度でゆっくりと麻酔液を注入し、麻酔時の痛みを最小限に抑えることが可能です。
1. C1の治療法
虫歯の部分を除去するため歯を削り、同日に白く詰めます(CR充填)。保険治療で白く治せます。
ただ、保険治療で行われる従来のCR充填では、単一色のため歯の状態によっては不自然な仕上がりになることがあります。
昨今、そのような難症例に対してダイレクトボンディング法という最新の治療法が注目を集めており、CR充填を発展させたアメリカ発の最新の治療法です。術式自体は保険治療のCR充填と大きく変わりませんが、保険では認められていない高品質でハイブリッドなコンポジットレジンを使用し時間を掛けて仕上げていくため、保険外治療で行っております。
何十色もあるコンポジットレジンの中から、患者様ひとりひとりの歯の色調(シェードテイキング)や歯の形態(モールドテイキング)に合わせて、何層にもコンポジットレジンを積層充填していきます。当院では、天然歯の透明感や光沢を出し、色のグラデーションや細かいニュアンスにこだわって、1本1本丁寧に治療します。
2. C2の治療法
虫歯の部分を除去するため歯を削り、歯型の印象採得まで行います。保険治療の場合、次回銀歯の詰め物をします(インレー修復)。
3. C3の治療法
虫歯が更に進行し、歯髄まで達した場合(歯髄炎)には歯の神経の治療が必要となり、治療時間・治療期間ともに長くなります。
当院が、虫歯の早期発見・早期治療を訴える医学的根拠はいくつかありますが、その理由の1つに歯髄炎は持続的な強い自発痛(何もしなくてもズキズキ痛む)を伴うため痛覚閾値が低下しており、通常の麻酔量ではなかなか無痛状態にならないからです。特に、下顎の奥歯は周囲の骨が硬く麻酔が浸潤し難い場合も多いため、その時には麻酔量を増やすか、下顎孔伝達麻酔といって下歯槽神経に直接麻酔を打ちます。ただ近年では、下歯槽神経の後遺症も懸念されており、それに代わって歯根膜内注射法を選択する歯科医院も増えてきました。
一般的には局所麻酔(表面麻酔+浸潤麻酔)をまず行い、無痛状態が確認できたら感染歯質を除去するため歯を削り、現在の強い自発痛の原因となっている不可逆な炎症を起こしている神経を取り除き、根管(歯根)治療を行います。根管に薬剤を入れて、歯の状態が安定したら、歯髄に置き換わる特殊な薬剤(ガッタパーチャや水酸化カルシウム製剤)で細菌が侵入しないよう根管内を緊密に封鎖し、歯根部の治療を終了します。
続いて、歯根部の治療は、まず歯根に土台を立て、その上から歯冠修復物(クラウン、差し歯、被せ物)を装着します。現在の医学の水準ではこのような「二層構造」で治療するのが一般的な保険治療です。
4. C4の治療法
末期まで進行し、歯根の先が膿んだ病変の状態(根尖病巣)で、歯根部が崩壊し残痕状態の虫歯です。治療時間・治療期間ともに更に長くなり、治療経過が悪い場合には抜歯になることさえあります。又、膿は周囲の骨を溶かしながら拡大していくため、一度治療しても骨が再生するまでの間(約5年間)に根管内へ侵入した滲出液や細菌の温床となりやすく、再感染を起こす確率は50%以上と歯科疾患の中では難治性の高い部類になります。
予後不良となる可能性があるのは以下の場合です。
- 自発痛・打診痛が消失せず、今後も改善の見込みがない。
- 根管からの出血・排膿・滲出液が消失せず、今後も改善の見込みがない。
- 根尖部の歯肉から腫れ、痛みが消失せず、今後も改善の見込みがない。
- 根管治療を行うため、支台構造の土台(コア)を外すときに歯が破折し割れた場合。
- 歯根吸収が進行し、歯根長が著しく短くなり歯冠歯根比のゴールドスタンダート(黄金比率)「1:1」が失われた場合。(ただし保険外治療クラウンレングスニング歯冠長延長術を施行した場合はその限りではありません。)
神経を失った歯の予後
幸いにもC4の歯を抜かずに保存出来た場合は、本当の意味で完治に至るまで何年もの月日が掛かります。1本でも神経の失った歯(C3・C4処置歯)がある患者様には4ヶ月に1回の定期検診をお薦めしております。本来、神経の大切な役割の1つとして、歯の異常を「痛み」という信号で伝えるという仕事がありますが、神経を失った歯は異常が起きても「痛み」という自覚症状が出にくいため、被せ物と歯の境目から虫歯が発生しても発見が遅れがちです。
又、神経のある歯との差は、歯の色調や強度にも現れます。歯の神経まで細菌が達すると、腐った神経や血液の成分が象牙質に染み込み、経年変化で歯が茶褐色や黒く変色してしまいます。強度に関しては、歯自体の強度は変わりませんが、神経を取り除いたり虫歯を削ることによって、部分的に薄くなり、将来歯が破折し割れやすくなる傾向があります。
支台築造(コア・土台)の種類
神経を失った歯は、歯冠部歯質が薄くなっておりそのまま歯冠修復物(クラウン、差し歯、被せ物)を装着しても、咬む力で歯が破折し割れてしまいます。
そこで歯の内部の空洞を補うために支台築造の土台(コア)を製作します。
支台築造体は、一度装着すると除去するのは非常に困難を極め、その際、歯が破折して割れて抜歯になることすらあります。基本的にやり直しのきかない治療との考え方が前提で、各素材の特徴を充分理解し選択することが、歯の寿命を左右します。
1. メタルコア(銀合金)
保険治療で制作する一般的なメタルコア(銀合金)です。安価な反面、短所も多々あります。歯型の印象採得をするため歯の内部を外開きに仕上げる必要があり、そのため健全な歯質を部分的に削ります。万が一根尖性歯周炎(C4)を発症した場合、メタルコアを除去し根管治療(再治療)を行うのは困難で、時に歯が破折し割れることがあります。又、将来審美領域を御希望される患者様は、オールセラミッククラウンを選択すると中のメタルコアが透けてしまったり、ブラックマージン(経年変化で歯茎が下がってきた時に見える金属の黒ずみ)やメタルタトゥー(錆びて金属イオンが溶け出し歯肉に沈着し、歯茎が黒く変色)等、審美面では不利です。
ただ、最大のリスクはその硬さにあります。歯根の象牙質と比べ、支台築造体があまりに硬過ぎるため、咬む力により歯が破折し割れ、神経を失った歯が予後不良(要抜歯)になる一番の原因となっています。
2. ゴールドコア
プレシャスメタル・セミプレシャスメタルである金合金や白金加工で製作したゴールドコアです。メタルコアよりも軟らかいため、歯が破折し割れるリスクを大幅に軽減出来ます。
審美的にも優れ、明るいためオールセラミックの治療に有利です。ブラックマージンやメタルタトゥーも防げます。
ただ、万が一、根尖性歯周炎(C4)を発症した場合、ゴールドコアを除去し根尖治療(再治療)を行うのは困難で、時に歯が破折し割れることもあります。
ファイバーコアとは異なりセメント合着なので、歯冠部歯質が全く残ってない場合でもほとんどの症例で対応可能です。
3. ファイバーコア
FRC(ガラス繊維強化樹脂)という支柱(ポスト)を入れることによってメタルコアの短所を改善する目的で開発されました。人工象牙質と呼ばれ、歯根の象牙質と似た硬さと弾性により歯が破折し割れるリスクを大幅に軽減出来ます。審美的にも優れ、白いためオールセラミッククラウンの治療に有利でブラックマージンやメタルタトゥーも防げます。万が一、根尖性歯周炎(C4)を発症した場合、ファイバーコアを除去し根尖治療(再治療)を行うのも比較的容易です。
ただし歯冠部歯質が全く残っていない場合、歯肉の滲出液を完全に防湿することが困難なため、接着システムの観点から対応出来ない症例もあります。
歯冠修復物の種類
1. 金銀パラジウム合金インレー・クラウン
保険治療で製作する一般的なインレー・クラウン、いわゆる銀歯です。
2. ゴールドインレー・クラウン
素材に展延性があり、口腔内で安定した金属、ゴールドを使用、為害作用を引き起こしにくい(生体親和性良好)高カラットゴールドは、インレー・クラウンからブリッジまで多目的に使用出来ます。
3. ハイブリッドレジンインレー
セラミックの審美的耐久性と硬質レジンの耐衝撃性を併せ持った素材であり、インレー治療に適応出来ます。エステニア、グラディア、アートグラス各種お取り扱い致しております。
4. オールセラミックインレー・クラウン
セラミックを加熱・加圧成型させる方法と、直接支台歯に積層する方法があります。抜群の適合性を安定的に実現します。インレー・クラウンなど、幅広い補綴物に対応出来ます。金属を一切使用していないためブラックマージン(経年変化で歯茎が下がってきたときに、見える金属の黒ずみ)やメタルタトゥー(錆びて金属イオンが溶け出し歯肉に沈着し歯茎が黒く変色)を防止出来ます。
5. メタルボンドセラミッククラウン
クラウンからブリッジまで安定した技術で対応します。ノンプレシャスメタル(コバルトクロム・ニッケルクロム)にセラミックを加熱・加圧成型するタイプと、プレシャスメタル・セミプレシャスメタルにセラミックを直接積層するタイプがあります。
6. ラミネートベニア
歯質形成を最小限に抑えることができ、変色歯・正中離開、形態改善など(クイック矯正)に対応出来ます。セラミックシェルで全シェード(色調)に対応します。
7. ジルコニアセラミッククラウン(CAD/CAM)
強度の高いジルコニアを使用し、生体親和性の高いセラミックフレームをCAD/CAMにより作製します。その上にジルコニア専用の陶材を築盛した審美クラウンです。金属を一切使用していないためブラックマージンやメタルタトゥーを防止出来ます。
8. ガルバノクラウン(AGC)
メッキの技術を応用した電鋳(エレクトロフォーミング)で適合精度の高いメタルフレームを作ります。純金なのでセラミックも美しく仕上がります。マージン部にも純金を使用し辺縁封鎖が容易に可能なため、ブラックマージンやメタルタトゥーを防止出来ます。
クラウンレングスニング(歯冠長延長術)
クラウンレングスニング(歯冠長延長術)は、歯周病治療ではなく虫歯治療を目的としたフラップオペレーション(歯周外科手術・歯肉剥離掻爬手術)です。歯冠部歯質の大部分を失ったり、歯根吸収が進行し歯根長が著しく短くなったり、歯冠歯根比のゴールドスタンダード(黄金比率)「1:1」が失われたりと、従来の治療法では予後不良となった歯の延命処置を図る治療法です。
歯肉や歯槽骨を削ることで、虫歯や歯の破折部位を歯肉縁上に出し、予後不良の歯を保存することが可能になるだけではなく、歯型の印象採得も綺麗に行えるため精密な歯冠修復物の製作が可能です。
その際、歯を長持ちさせるためには、歯槽骨から5mm以上の歯質を露出させることが必要です。
ただし、前歯部に行った場合、歯茎のライン(マージン)が下がるため、周りの歯とズレが生じ審美障害が残る場合があります。
知覚過敏
口の中の痛みは、虫歯や歯周病以外の原因で起こることもあります。特に、冷水痛や接触痛の一過性の痛みは知覚過敏の可能性があり、その時は極力歯を傷つけない治療法で解決を図るようにしています。知覚過敏には高確率で楔(くさび)状欠損が認められます。
知覚過敏の原因には以下が考えられます。
- 過度なブラッシング圧による間違った歯磨き
- 歯周病
- 歯ぎしりや咬み合わせ(アブフラクション)
- 歯周病治療後(歯石取り等)による一時的な症状
動水力学説に基づく知覚過敏の治療法には以下が挙げられます。
- ブラッシング指導
- 薬物療法(フッ化物塗布)
- 露出象牙質の被覆(CR充填や高分子皮膜MSコート等)
- 神経を取り除く処置(3ヶ月経過観察し日常生活に支障を来す症状が改善しない場合)